お手軽パラノイア

 「何か質問はありますか」

 

 面接でも仕事でも講義でも、この言葉を聞くと、心臓がたちまち凍り付いて、呼吸が浅くなる。何とかして、よくぞ聞いてくれましたと相手が感心するようないい感じの質問をぶつけようとするのだが、胸から喉にかけて何かが詰まったように声が出なくなる。相手の話を理解し、既に説明されたことは頭に入れたうえで、他人がした質問と被らないような問を投げかける準備をする。そんなプロセスを頭の中で完了させ、挙手。するとたちまち質問された人と、参加者の注目は自分に集まる。ミスは許されない。口ごもらない。怪訝な顔をされたら?笑われたら?あ、他の人が質問をしてる。誰も質問をしない気まずい沈黙が降りてくることは無くなったわけだ。じゃあ私はいいか。

 という葛藤が例外なく毎回起こる。いくらなんでも殺伐としすぎである。もっと気楽に生きたらいいのにこの人。

 視線を気にするどころか、向けられる意識に過剰反応するのは、これまでもこれからも私の人生で一番の課題だ。日によって度合いは変わる。全く気にならずに過ごせる日もあれば、耳栓で音を遮断したうえで絶対に誰とも目が合わないよう、目を全力でバタフライさせに行っている日もある。自意識過剰と言えばそれまでだが、人は他人を気にしていないようで気にしていると思うのだ。例えば知らない人で構成される電車の中。隣の人が本を読んでいたら何を読んでるのかちょっと気になるし、持っている紙袋の店の名前を検索してみたり。おしゃべりしている人たちの声は嫌でも耳に入ってくる。超美形が居たらおもわず見とれてしまう。寝て起きたら忘れていても、その時間だけは気になる。Xにポストしたら記録に残る。少しの印象が積もり積もって噂話となるかもしれない。無駄に働く想像力。ブログとかもっと他のことに使えたらいいね。